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2012年11月 3日 (土)

いつかどこかで2

前回より

年老いた私は、冷たいベッドの上で、ひとり息をひきとりました。

男の姿は見えません。 

おそらく、こんな私に嫌気がさして、どこかへ行ってしまったのでしょう。

粗末な洋服をひとつひとつ脱ぎ捨てながら、天国に向います。

心も体も軽くなり、地上の煩わしさから解放され

自由の国に行ける喜びにひたっていると…

そこにはあの同居人が待っていました。

「また、あんたなの?」

あきれた声で叫んでしまいました。

「もう、あんたなんか見たくも…」

そこまで言って、彼の顔をよく見ると、

生きていた頃よりずっと明るく若々しいではありませんか。

「ずいぶん待ったよ。淋しい思いをさせてごめんね」

言葉まではっきりとしています。

「なんだ、ちゃんとしゃべれるんじゃない」

すると、ニッコリ笑って彼が言いました。

「下にいた頃、君はちょっと耳が不自由だったから

よく聞き取れなかったんだね」

「えっ!?」

「君はとても苦しそうだった」

彼が上手く話せないとずっと信じていたのに

聞こえていなかったのは私のほうだった…

なんていうことだろう。

次回最終回

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