いつかどこかで2
前回より
年老いた私は、冷たいベッドの上で、ひとり息をひきとりました。
男の姿は見えません。
おそらく、こんな私に嫌気がさして、どこかへ行ってしまったのでしょう。
粗末な洋服をひとつひとつ脱ぎ捨てながら、天国に向います。
心も体も軽くなり、地上の煩わしさから解放され
自由の国に行ける喜びにひたっていると…
そこにはあの同居人が待っていました。
「また、あんたなの?」
あきれた声で叫んでしまいました。
「もう、あんたなんか見たくも…」
そこまで言って、彼の顔をよく見ると、
生きていた頃よりずっと明るく若々しいではありませんか。
「ずいぶん待ったよ。淋しい思いをさせてごめんね」
言葉まではっきりとしています。
「なんだ、ちゃんとしゃべれるんじゃない」
すると、ニッコリ笑って彼が言いました。
「下にいた頃、君はちょっと耳が不自由だったから
よく聞き取れなかったんだね」
「えっ!?」
「君はとても苦しそうだった」
彼が上手く話せないとずっと信じていたのに
聞こえていなかったのは私のほうだった…
なんていうことだろう。
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