いつかどこかで12(生と死)
黒く冷たく濡れた石の階段を下りて、そのドアを開けると
光あふれる広大な空間が見えた。
「こっちへおいで」と呼ばれても、怖くて一歩が踏み出せない。
馴染みの大きな手を、私の小さな手がギュッと握りしめる。
「この手を離さないで、いつも傍にいて。」
「傍にいるよ、いつだって。僕はどこにでもいるのだから。」
「この手を離したら、私はひとりぼっち。」
「僕は君の中にいる。全てが僕で、僕が全てだから。」
「え、よく分からない。」
「君の中に僕はいる。僕は君で、君は僕。」
「分からない、分からない。どういうこと?」
「知らないの?こんな簡単なことを。」
「この手を離したら、私はひとりぼっち。」
「違うよ、ほんとはね、全てが僕で、君も全て。
離れるとか、一緒とか、そんなことは最初からないんだよ。」
「私はひとりが怖いの。だからずっと一緒にいるって約束して。」
「約束なんてないんだよ。何もない、何も要らないよ。」
「約束がない?」
「全てがあるんだから、約束は要らないよ。
さあ、飛んで。こっちにおいで。」
私は光の空間にそっと入っていった。
ふわりと体が浮いて、全てがあり何もない世界の光の粒になった。
そして広大な世界を無心で漂った。
重力がない。何をするのも自由だ。
もう一つのドアを見つけて入ってみると、あの黒く濡れた階段だった。
冷たい階段を下りて行き、さっきの出口を見つけて、また光の世界へ飛び出した。
そしてドアから入って階段へ。
何度もグルグルと回る。
回るスピードが速くなり、私の体がなくなっていた。
全てがあり何もない、時間もないから約束もない。
怖いという感覚はとっくに消えていた。
全てが私で
私が全てなのだから。
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階段と光の世界は、生と死でしょうか。私たちは知らないうちに繰り返しているのでしょうか。考えることすらなく、私はひたすら回っていました。